
VJU企業組合準備会主催「第2回 VJが訊く!」の帰り道、タクシーに乗ったら、自分の大好きなBilly Joelの「My Life」がかかっていた。 「ラジオ、大きくしてください。これって、中学のとき初めて覚えた英語の歌なんですよ」と運転手さんにお願いしたら、運転手さんは吉田拓郎世代だという。「政治家なんかより、アーティストが勇気くれる。そんなときありますよね」みたいな話から、なぜか一気に貧困問題の話に―
不動産会社をリストラされてタクシー業界に入ったという運転手さん。タクシー業界も大変なので、高校2年生になる彼の息子は進学ではなくて、調理師を目指し飲食店でバイトをしているという。が、修行と称して<時給に換算すると300円>なのだそうだ。早朝から深夜まで働くので、息子さんは家賃5万のアパートで自活。洗濯する暇がないので、お父さんが彼の衣類をタクシーのトランクに入れて運び、お母さんが洗濯する。そんな暮らしが続いているという。涙ぐましい支え合いだ。
「実は、派遣村の湯浅さんを呼んで、そういう話を皆でしてきたところなんです」と言うと、運転手さんは大喜び。「お客さん(エンドーのこと)くらいの世代の人が、ぜひがんばって運動を起こしてほしい。皆で国会包囲くらいやってくださいよ。陰ながら応援します」と熱いエールを送ってくれた。
と書くと、「なんで運転手さんは自分で運動しないの?」と思うかもしれない。でも違う。「運動しない」んじゃなくて、「できない」のだ。タクシー運転手の世界にも組合はある。あるけれども、売り上げが厳しいなか、組合活動をするヒマさえないというのが実情なのだ。もはや声を上げる力も奪われた労働者たち。声なき声を如何に拾い上げていくか。これからジャーナリズムはどこまでそれを追究できるのか。ジャーナリストといえども、ちっぽけな個人であることは変わらない。必ずしもやり抜けるという自信はない。
でも、「まだ終わりじゃない」―それを確信した夜でもある。
ホームレスや派遣労働者だけの問題じゃない。貧困問題はすでに皆の大問題で、皆で解決すべき問題だということを伝えたくて思いついた企画。そこに学生から、派遣労働者の方、アルバイトの方、大企業の正社員の方、そして誠意ある研究者の方々も加わって、立場を超えて問題をシェアできたことが、何より嬉しい。今回は就活で悩む教え子にも映像に出演してもらったが…勇気を出して協力してくれたその気持ちに…教員としてとかじゃなくて、先輩としてちゃんと応えられるよう、がんばっていかなくちゃいけないと決意を新たにした。Mさん、ありがとね。
タクシーが自宅に着く直前、ラジオのBilly Joel特集は80年代の名曲「Allentown」を流してくれた。工場労働者の思いをつづった曲。その中に効果音のように入っている「ハンマーの槌音」を聞いていたら、胸がいっぱいになってきた。
万国の労働者よ団結せよ!心の中で叫んだ。
皆、あきらめないでがんばろう。
最後に、盟友・湯浅誠さん+稲葉剛さんはじめ「もやい」の方々、そしてみほこんさん…皆、やっぱりすごいね。これからもよろしく。