2011年7月12日火曜日

虚栄と隠蔽の街


 渋谷区役所駐車場の取材を始めて、1年半が過ぎようとしている。この間、渋谷の街に感じた印象を一言で言うと「虚栄と隠蔽」だ。繁栄する街の影で、野宿者は排除され、その存在も、場合によっては死さえも隠されている。民間企業が管理する施設の多い渋谷では、監視カメラや警備の目が厳しく、野宿者はただ佇むだけの場所も得ることができない。晴れた日は公園で、雨の日はガード下で、息をひそめるように暮らすしかないのだ。

 そんな渋谷の街中で、唯一、安心して雨風がしのげるのが渋谷区役所駐車場である。ナイキの資本で宮下公園が「レジャー施設」化された現在、わずかな駐車場の空間がますます重要になっている。業務時間外の夜から早朝の限られた時間ではあるが、多いときには50人ほどが野宿し、毎週金曜日には民間のボランティアによる炊き出しが行われてきた。区役所の足元で生活に困窮する人々がいるのに、渋谷区が彼らに積極的に関与したことはない。それどころか、去年の春にはシャッターを完全閉鎖して、野宿者を追い出しにかかった。そして今年は、6月24日・7月1日の二回にわたって支援者の炊き出しに中止を迫った。

 本来、野宿者を保護する立場にあるはずの自治体職員が「ここは管理区域だから」と平然と言う。区役所や公園など、公共の施設は本来市民のものであり、彼らは市民に雇われて生活している。にもかかわらず、庁舎の管理権限ををまるで自らの所有物のように振り回す態度は、私企業のそれに近い。企業の法人税で比較的財政の豊かな渋谷区は、区そのものが企業になってしまったかのようだ。

 この経緯はD-TV NEWS018で、赤裸々に報道した。取材時には、数名の警備員がまとわりつき、執拗に撮影を妨害したのでその様子もワンカット入れさせてもらった。彼らは駐車場の実態を表沙汰にしたくないようだ。「炊き出しを中止させた」などと知られれば、他の支援団体も黙ってはいないだろうし、かと言って、区役所の敷地から野宿者が延々と列を作るのを放置すれば、近隣の法人に顔が立たない。そんなところだろう。非人道的な行為を、人目につかないような方法で行う。これが、自治体の行うべきことか。間違いなく、ホームレス自立支援特措法違反である。

 7月8日、渋谷区の職員は三たび駐車場に降り、支援者に対し「中止勧告」を行なった。強制的な排除などはなかったものの、この日、駐車場の蛍光灯が完全に消された。支援者がその事情を問いただしたところ、「節電」だという。周囲は昼のように明るく、ネオンがまばゆい街の一角で、だ。蒸し暑く真っ暗な駐車場の中、120人以上の人々が、取材班のライトだけを頼りに食料を受けとり、麦茶を飲んだ。
     
 人々が金を落とすネオンの街を拡大し、野宿する人々は暗闇に追いやって、見てみぬふりをする。そして、いつかはなきものにしたい。それが渋谷区の目指す街づくりなのだと確信した。

D-TV NEWS 018 「炊き出し潰し!? 渋谷区役所駐車場」

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