2009年5月16日土曜日

成し遂げ続けるということ


自分は理想家であるとともに、かなりの現実主義者だ。夢は実現させるものだと思っている。もともとは存在しなかった職業を形にした一人だから、この点は胸を張って語る資格があるだろう。とはいえ、夢を形にし続けることは、実現させることより実は難しい。

丸山真男という思想史家が書いた「であることと、すること」(岩波新書「日本の思想」所収)という文章を初めて読んだのは、高校生のときだった。「日本人は職業でも地位でも『○○である』ということにこだわるけれども、本当は『○○し続けること』が大事だ」というような指摘から、民主主義の発想を説く文章だ。「権利の上にねむる」日本人の精神的伝統を鋭く突いた名文だと言われている。
ここで語られる職業的アイデンティティの話題は本筋からすると比喩にすぎないのだが、成し遂げ続けることは確かに大変だと最近改めて思う。

そもそも、VJ(ビデオジャーナリスト)という職業を切り拓けたのは、必ずしも自分の努力や試行錯誤だけではない。時代の流れと合致しなければ実現しなかっただろう。そして、時代は常に流れ行くのだ。

合資会社VJUの組織的活動を休止してフリーになった理由は明快で、要は「社長業が楽しくなかった」からだが、再び組織作りに手を伸ばした今、われわれを取り巻く条件はかつてとは違う。人材を育てた経験も、仕事を開拓した実績も、同じ結果を再び得る保証にはならない。

ただ、去年から始めたVJU企業組合準備会には、合資会社にはなかった有利な点が一つある。

それは、一人一人が資本を持っている点だ。このご時勢、もちろん資金という意味ではない。人脈、アイデア、さまざまな違う技術・・・組み合わさって、予想外の戦略が生まれてくる。これが、実に面白い。新しいつながりに、新しい仕事の形…それを実現する過程がまた、仲間の結束を固めていく。

どんなに経験を積んでいたとしても、今この時代を生きるという点では、若者たちと同じく、自分も初心者だ。だから彼らは弟子ではあるが、部下ではない。誰が代表なのかも決まってないので、外から見ると理解しがたい組織らしい。だが、今のところ、その曖昧模糊とした感じさえも、妙に心地よい。

固いものは折れるが、柔らかいものはしなる。そこに強さがある。どんなに激動の時代でも上手に揺らいで立ち続ける、そういうネットワークに育ってくれたらいいなと思う。揺らぎを逆手にとった五重塔の優れた技術もまた、日本の伝統である。

2 件のコメント:

  1. 湯浅誠さんが『反貧困』の中で、「溜め」という言葉を使っています。ため池は大雨が降れば雨を滞留させ、干ばつがあれば溜めていた水を開放する。それと同じように、「溜め」というのは、外からの衝撃(金銭的なものや人間関係やさまざまな衝撃)の緩衝材になり、そして次の行動へのエネルギーを生み出すものだそうです。

    そこで思ったのですが、VJUも一つの「溜め」なんじゃないでしょうか?VJの労働者性を守りつつ、作品を作っていく場としての「溜め」。遠藤さんが言うように、みなやってることも、できることもバラバラなメンバーがVJUに集めっています。イベントや研究発表など、メンバー間の違いを生かした活動をこれからどんどんしていきたいですね。

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  2. その喩えは、あまりピンと来ないが…「違い」というのがリスク回避や新しい切り口にとって重要であることは確かだろうと思います。

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